アラサー高学歴ニートの軌跡

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舞城王太郎デビュー作「煙か土か食い物」を紹介する

阿修羅ガールで有名な舞城王太郎のデビュー作「煙か土か食い物」をレビューします。(ネタバレほぼなし)

 

 

こんな人にオススメ

 

・破天荒な主人公の、カオスな物語を読みたい。

・狂気太郎が好きな方。狂気太郎と同様グロい描写が溢れているが、作者の知性及び社会や人間への深い洞察が感じられる点は共通である。

・いつの間にか自分がどこかにワープしてしまったような感覚を味わいたい。

 

実際読んでみると、一文の長さにまず目がいく。

 

サンディエゴにはおよそ三百万人の市民が住んでいるが、そいつらがどういうわけだかいろんな怪我や病気を背負い込んでホッジ総合病院にやってくるから、ERにいる俺は馬車馬三頭分くらいハードに働いてそいつらを決められたところに追いやる。

 

試しに冒頭の一文を抜き出してみたが、とても長い一文である。けれども意外と読みやすい。実際に読んでみると分かるが、割とすらすら読めるのだ。

 

優秀な外科医である奈津川四郎が主人公。頭脳明晰で喧嘩も強く、そして相当なプレイボーイである。兄の妻と寝たり、ろくに寝てないのに超人的な行動力を発揮したり、かと思えばダンテの神曲の内容をひけらかしたり、まあとんでもなくカオスな人物である。四郎以上に二郎はもっと強烈なのだが(例:生きたカエルを五匹も相手の口に押し込んだり)、あなたもその強烈さを是非確かめてほしい。

 

母親が刺されて埋められたという知らせを聞いて、四郎が急遽日本に帰るところから物語は始まる。同様の事件が5件起きていて、四郎は一連の事件に潜む規則性に気づいていく。一方で、奈津川家の狂った内情も明らかになってくる。奈津川家の庭には三角形の牢屋みたいな建物があり、鍵が開けられるのは外側からだけ。つまり一旦閉じ込められれば密室、なのに四郎の兄二郎は脱出していた…?ぶっちゃけ二郎がどうやって密室から脱出したのかが大変気になるのだが、本当に面白いのは四郎の兄弟たちの狂った幼少時代である。てっきりミステリーかと思い込んでいたら、うんざりするくらい濃密な家族同士の諍いにいつの間にか巻き込まれてしまっていた。

 

物語の最後の方でおおよその真相は明らかになるが、本当の真相はうっすら仄めかされるだけで読者の想像に委ねられている部分があまりにも大きく独特のゾワゾワ感が残る。