アラサー高学歴ニートの軌跡

アラサー高学歴ニートが、日々の行動や考えを記すブログです。

【神授業】ドナルド・カーン教授の英語講座を実況中継

僕の通う東雲大学文学部には、ドナルド・カーンという名物教授がいる。今日はドナルド教授が英和辞書を読む楽しさを教えてくれました。

 注:この物語はフィクションです。

 

毎週月曜4限はドナルド教授の「英語を愉しむ」という授業がある。教授のクセは非常に強いが、基本的に良い人であり単位も取りやすいので学生には人気がある。今日は最後の授業があった。

 

50人ほどが入れる教室で今日も僕は一人、スマホをいじりながら孤高を気取っていた。今日でドナルド教授の授業は最後ながら、いつも通り教室は騒がしかった。その風貌から学生たちが密かに「トランプ」とあだ名するドナルド教授が教室に入ってきた。本物のトランプ大統領よりもいかめしい見た目の教授が咳払いをすると、学生たちは途端に静かになった。

 

ドナルド教授又の名をトランプは、今日もいつも通り出席を取り始めた。これまでと変わらぬ、日常の風景がそこにはあった。出席を取り終えるとドナルドは、

 

「今日は、皆さんに辞書を読む楽しみを教えようと思う。」

 

と重々しく宣言した。この時はまだ、あの衝撃を想像さえしなかった。いや、できなかった。今日もまたトランプの演説が90分ぶっ通しで繰り広げられるのだろう、学生の大半は寝るか内職でもするのだろう、僕は高をくくっていた。

 

ドナルドは、レクシスという英和辞書の適当なページをめくった。

 

「東雲大学に通う優秀な皆さんなら誰でも知っている英単語。例えばlemon。あの酸っぱいレモンだ。あまりにも当たり前すぎてへそで茶が湧くレベルだな。しかし君たち、lemonには役立たずとかポンコツという意味があるのを知ってるかい?知らないだろう。」

 

トランプは得意げな笑いを浮かべた。

 

「君たちが通っていた高校にも、lemonは沢山いただろう。場所によっては、lemonが多すぎて学校中にレモンの匂いが立ち込めていたかもしれない。君たちが勤めることになるであろう職場にもlemonの一つや二つは存在するはずだ。でもそれは一面的な見方だと僕は思う。その職場ではlemonでも、他の場所ならgodにだってなりうるのさ。そいつ自体がlemonなのではない。そいつのいる環境がそいつをlemonにしてしまうんだ。」

 

今日のトランプはやけに熱い。目が血走っていた。学生はというと、この時点ではまだ大半が内職をしたり寝てたり、中にはトランプに興じるグループもあった。トランプの演説はまだ続く。

 

「hamはハムカツのハムとか太ももの内側という意味なのは頭のいい君たちなら常識だろう。だがしかし、大根役者という意味もある。日本と同じく、長くて太いモノが演技下手な役者を指す現象は興味深いね。」

 

「bananaは君たちも大好きだろう。そう、安くて美味しいあのバナナだ。ある場所に出し入れして楽しんだ者もいることだろう。ちなみに僕はそういうお下品な真似はしたことがない。」

 

ここで幾人かの学生が失笑した。僕も失笑してしまった。

 

「君たちおなじみのbananaの前にgoを付けるととても面白いことになる。go bananas という形になると「頭がおかしくなる」「怒り狂う」という意味になってしまうんだ。滑って転ぶことがわかっているのにバナナの皮に向かっていく様を想像すれば、賢い皆さんなら納得できると思うよ。」

 

演説開始当初より、トランプの演説に聞き入る者が増え始めた。漫画本や雑誌を閉じる音が時折聞こえた。

 

「pinkは、文字通りピンクつまり桃色なのは当然だな。だけどね、実は左寄りとか、左翼って意味もあるんだよ。米英にとって共産主義は極左であり共産主義のシンボルカラーは赤、という背景が感じられてなかなか面白いとは思わないか?僕はpinkだけどlemonではない。I am pink,but I am not lemon.」 

 

トランプは興奮すると英語を喋る癖がある。僕も興奮するとつい関西弁が出てしまうことが多く、トランプには僭越ながら親近感を覚えている。トランプが興奮し始めたのを察知した多くの学生はいつの間にか内職を辞め目を覚まし、トランプの演説に聞き入った。

 

「僕はpinkだから、最近の日本の格差社会には問題意識を持っている。かつての日本は日本独自の社会主義の元、一億総中流という素晴らしい社会を築いていた。日本は世界で最も成功した社会主義国だったんだ。その要因のかなりの部分を高度経済成長が支えていたとは思うけどね。もちろん、ソビエトだって立派な社会主義国だよ。社会主義当時のソビエトは今のロシアより失業率が低かった。工場労働者たちは皆勤務中に酒を飲み、それでも給料がもらえていたし、社会も回っていた。ソビエトは夢の国だったんだ。」

 

学生たちは皆、ドナルドの話に聞き入っていた。頷く者も多数いた。

 

「バブル崩壊後の日本は、今ほど格差がひどくはなかった。90年代はなんだかんだ豊かな時代だった。

 

しかし、竹中平蔵が全てを破壊してしまった。

 

そういう意味で僕は、竹中平蔵大先生に感謝している。「日本をダメにしてくれてありがとう」とな。

 

I appreciate Heizo Takenaka for spoiling Japan!」

 

トランプは激しく興奮していた。興奮の最高潮、まさに波のてっぺんに彼はいた。

 

「最近のアニメがつまらないのも竹中平蔵のせいだ。」

 

学生一同大爆笑だった。それはさすがに違うだろ、どんだけ竹中平蔵嫌いなんだよ、と僕は思ったが、学生の中にはトランプの発言を信じた者もいるかもしれない。竹中平蔵が日本をダメにした最大の立役者なのは確かだろうが。

 

「年収1000万超えのサラリーマンがいる一方で、時給1000円以下でこき使われているバイトもいる。例のくら寿司のバイトの一件も、背景にはバイトの低賃金問題が潜んでいると思うよ。バイトの賃金を高くし、国民の給与格差を縮めるにはどうしたらいいだろう。なかなか難しい問題だ。だから、優秀な君たちには、勉強して、時には英語の論文読んで、解決策を編み出してもらいたい。まずは英語に興味を持つために、英和辞書をめくって出てきた滑稽な意味や英単語を楽しもう。1日1分でいいから、英和辞書をめくろう。英語に興味を持てるようになったら、英語の論文にもチャレンジしてみよう。日本の格差問題を解決する画期的な方法が書いてあるかもしれない。日本の未来を切り開くのは君たちだ。期待しているよ。」

 

トランプはまくし立てると、教室を後にした。